PFAS規制がネジめっき・コーティングに与える影響とは?
下水道や井戸水から基準を超える数値が検出されたというニュースで、最近よく耳にするようになったPFAS。実は、締結部品のめっき・コーティングにも大きな影響があるとされています。
今回は、PFASの説明から、ネジめっき・コーティングに与える影響まで詳しく解説いたします。
目次
PFASとは?
PFASとは、1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称です。
炭素とフッ素の結合を持つ人工的な化学物質で、2000年代初め頃まで、防水スプレー、焦げ付き防止フライパン、食品包装、泡消火剤、半導体製造など様々な用途で利用されてきました。
自動車業界では、ワイヤーハーネスやシールなどの部品のコーティング剤、自動車のボディや内装材の撥水コーティング剤、洗浄剤、一部の車種においてエアコンの冷媒として使用されてきました。
日本語では、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(Per- and PolyFluoroAlkyl Substances)と呼ばれています。
PFASの種類・用途、「特定PFAS」について
数あるPFASの中で代表的なものが、PFOAとPFOSの2つです。
- PFOA(ペルフルオロオクタン酸):撥水剤、界面活性剤、焦げ付き防止フライパン、食品包装など
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸):泡消火薬剤、めっき処理剤、防水スプレーなど
この他、半導体の各製造プロセス、また5G・6Gなどの高速通信装置の電子基板、スマートフォンやEVに使用されるリチウムイオン電池の電極、燃料電池の電解質膜など先端分野でも活躍しています。

上の2つにPFHxSを加えた3つが「特定PFAS」とされており、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で国際的な規制が取り決められ、日本国内においても2010年の化審法(正式名:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)により、国内における製造と輸入が原則禁止されました。
PFASが抱える問題
PFASは、非常に有用な素材である一方、①難分解性、②高蓄積性、③長距離移動性といったデメリットがあり、「永遠の化学物質」と呼ばれることもあります。
- 難分解性:化学的に安定なため、分解されにくい
- 高蓄積性(残留性):自然環境や人体で蓄積しやすい
- 長距離移動性:一度、河川や湖に排出されると長距離を移動して拡散しやすい

こうした自然環境下での残留性が懸念され、環境省や自治体が河川等のPFOA・PFOS濃度を定期的に測定しており、水道事業者も1リットルあたり50ナノグラムという国の暫定目標値を超えないよう、活性炭やイオン交換樹脂を活用するなど様々な対策を行っています。
さらに人体への蓄積も起こりやすいことが問題視されており、発がん性、免疫機能低下、生殖機能への影響などが指摘されています。一度人体に入ってしまった場合、PFOAは平均3.2年、PFOSの半減期は平均5.7年とされており、排出されるまでに時間がかかってしまいます。
2024年後半から、大阪の某企業の敷地内の井戸水で約0.07グラム/L(目標値の1,460倍)のPFASが検出されるというニュースが報道されるなど、各地で話題となっています。
1,460倍と聞くと不安になる方もいらっしゃると思いますが、0.07グラム/Lというのは、オリンピックサイズのプール (50m×25m×2m) で言えば70mlのインクを垂らした程度、東京ドームに1円玉が落ちている程度です。
PFASが塗料・コーティング剤に含まれる理由
PFASは塗料・コーティング剤に含まれていることが多く、ネジ・ボルト・ビスの機能性向上に大きく貢献しています。
というのも、フッ素樹脂は非常に安定した化学構造を持つため、紫外線、雨水、熱、薬品などによる劣化を受けにくい性質があります(これが分解されにくいと言われる所以です)。
耐久性・耐候性・防水性・耐熱性・耐薬品性(酸・アルカリ)に加え、汚れもつきにくいため、長期にわたり美観性を維持することが可能です。
当社でも、主に摩擦調整剤として、締結部品の塗料・コーティング剤にPTFEをわずかに添加し、潤滑性を向上させております。
今後、PFAS規制がネジめっき・コーティングに与える影響は?
PFAS規制は、今後さらに強化されると言われており、PTFEなどの含有率制限や製造禁止など、新たな対応が求められる可能性があります。
これに対し、印刷インキ・有機顔料のトップメーカーであるDIC(旧 大日本インキ化学工業)がPFASフリーの界面活性剤を、同様に、東レがPFASフリーの半導体用フィルムを開発するなど、各社が代替品の研究・開発中です。ネジのめっき・コーティングに使用される塗料・コーティング剤についても、塗料・薬品メーカー各社が積極的に開発を進めています。
そしてその一つが、PFASフリーの固体潤滑塗料であるルブドライ。
文字通りPFASを使用していませんが摩擦係数を0.08~0.2程度にコントロールすることが可能で、ハイテンションボルトのトルク調整やSUSボルトのかじり防止などで活躍します。「有機フッ素化合物を使用していないのに潤滑性は大丈夫?」「硬度はどれくらい出る?」「ルブドライが合わない素材はある?」など気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。
PFASフリーの塗料・薬剤に関する新しい情報が入り次第、随時ご紹介させていただきます。
キョークロのネジめっき・コーティング

当サイトを運営する株式会社キョークロは、めっき薬品・塗料メーカーと協力しながら、耐久性・耐食性・潤滑性向上、意匠性向上、長寿命化、ウィスカ対策・電蝕対策など、お客様のご要望に合わせたネジめっき・コーティングの試作・開発を行っております。
オートギルダー・試作ライン・塩水噴霧試験機など、万全の試験・評価体制を整えており、バレルめっき量産ライン・コーターライン・ブラストなど量産設備も多数保有しております。
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