異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)の原因と対策

異なる金属が接触する環境でしばしば問題になる異種金属接触腐食(電蝕)。樹脂などの絶縁材料を使って対策することが多いですが、実はめっき・コーティングで対策することも可能です。
締結部品の表面処理のプロが、異種金属接触腐食の原因と対策について解説いたします。
目次
異種金属接触腐食とは?
異種金属接触腐食(別名:電蝕、ガルバニック腐食)とは、性質の異なる2種類以上の金属が電気的に接触し、電解質(水分、塩分などを含む環境)が存在する条件下で発生する腐食現象です。
この腐食は、単一の金属が腐食するのとは異なり、金属の組み合わせと環境条件によって腐食の進行度合いや範囲が大きく左右される点が特徴です。私たちの身の回りにある様々な金属製品や構造物において、予期せぬ劣化や損傷を引き起こす可能性があります。
異種金属接触腐食の原理
異種金属接触腐食の鍵となるのは、金属が持つイオン化傾向という性質です。
イオン化傾向とは、金属が水溶液中で電子を放出して陽イオンになろうとする性質の強さを示す尺度であり、その順序は一般的に以下のように表されます。
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
この順序において、左側に位置する金属ほどイオン化傾向が大きく、陽イオンになりやすく、つまり腐食しやすい(卑金属)傾向があります。一方、右側に位置する金属ほどイオン化傾向が小さく、腐食しにくい(貴金属)傾向があります。
異種金属が電気的に接触し、電解質が存在する環境に置かれると、イオン化傾向の大きい金属(卑金属)は陽極(アノード)となり、電子を放出して溶け出します(酸化反応)。放出された電子は、電気的な接触を通じてイオン化傾向の小さい金属(貴金属)へと移動し、電解質中の酸素や水素イオンと反応します(還元反応)。この一連の電気化学的な反応が、異種金属接触腐食の基本的な原理です。
異種金属接触腐食が起こりやすい素材の組み合わせ
異種金属接触腐食は、イオン化傾向が大きく異なる金属同士が接触することで顕著に発生します。以下に、腐食が起こりやすい素材の組み合わせの例を挙げます。
組み合わせ | 詳細 |
---|---|
鉄と銅 | 鉄は銅よりもイオン化傾向が大きいため、鉄が腐食しやすくなります。例えば、鉄製の配管に銅製のバルブを取り付けた場合などに見られます。 |
アルミニウムと鉄 | アルミニウムは鉄よりもイオン化傾向が大きいため、アルミニウムが腐食しやすくなります。自動車のボディパネルと鉄製の部品の接合部などで注意が必要です。 |
亜鉛メッキ鋼板と銅 | アルミニウムは鉄よりもイオン化傾向が大きいため、アルミニウムが腐食しやすくなります。自動車のボディパネルと鉄製の部品の接合部などで注意が必要です。 |
マグネシウム合金とアルミニウム合金 | マグネシウムはアルミニウムよりもイオン化傾向が大きいため、マグネシウム合金が腐食しやすくなります。航空機の部品などで使用される場合に考慮が必要です。 |
これらの組み合わせ以外にも、使用される環境(塩水、酸性雨など)や温度、湿度などの条件によって、様々な金属の組み合わせで異種金属接触腐食が発生する可能性があります。
異種金属接触腐食の対策
異種金属接触腐食を効果的に防ぐためには、以下のようないくつかの対策を組み合わせることが重要です。
①同一またはイオン化傾向の近い金属を使用する
同じ種類の金属や、イオン化傾向の差が小さい金属同士を組み合わせるようにします。
②異種金属間を絶縁する
電気的な接触を避けるために、ガスケット、ワッシャー、スリーブなどの絶縁材(ゴム、樹脂、セラミックスなど)を挿入します。
③防食塗料で被覆する
接触する金属表面をそれぞれ個別に、または接触部を含めて広範囲に防食塗料で覆い、電解質との接触を遮断します。
④犠牲防食効果を利用する
保護したい金属よりもイオン化傾向の大きい金属(亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなど)を電気的に接続し、代わりにその金属を腐食させることで、保護対象の腐食を防ぎます。船舶の船体や地下埋設された金属構造物などに有効な対策です。
これらの対策を適切に実施することで、異種金属接触腐食による構造物の劣化や機能不全を未然に防ぎ、製品の長寿命化が可能になります。
当社の異種金属接触腐食の対策ソリューション
当サイトを運営する株式会社キョークロは、ネジ・ボルト・ビスなど締結部品へのめっき・コーティングを行う表面処理のリーディングカンパニーです。
当社にも異種金属接触腐食に関するご相談を多数頂いており、締結部品・表面処理の双方の観点から、これまで様々なご提案をしてきました。その一部をご紹介させていただきます。
ステンレスから鉄+めっきへの変更による、異種金属接触腐食の防止

高耐食めっき鋼板(溶融亜鉛・アルミ・マグネシウム合金)に組付けるボルトを、当初SUS304で検討されていましたが、異種金属接触腐食の恐れがありました。
そこで当社から、犠牲防食効果が期待できる「鉄材+合金めっき」をご提案し、その結果、異種金属接触腐食の対策ができただけでなく、コストダウンにもなりました。
ステンレス+ジオメット処理による、異種金属接触腐食の防止

同様に、高耐食めっき鋼板にSUS304ボルトの組付けを検討されており、材質変更も検討しましたが、SUSであることが必須とのことでした。
そこで当社から、犠牲防食効果を期待できるジオメット処理をご提案しました。