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ネジ・ボルトの黒色めっき・コーティング選定のポイント

ネジ・ボルトなどの締結部品を黒色にする場合、めっき・コーティング・化成処理などを施すことになりますが、一口に”黒色”と言っても、艶あり・艶なし(艶消し)・アイアンブラックなど様々な色合いがあります。さらに、外観だけでなく、機能性やコストなども考慮し、最適な表面処理を選定する必要があります。

そこで今回は、締結部品の表面処理のプロが、黒色めっき・コーティング選定のポイントについて解説します。

黒色・ブラックの種類

まず、黒色・ブラックの種類、すなわちカラーバリエーションについて代表的なものをまとめました。

黒色の種類詳細
ピアノブラック(漆黒)文字通りピアノや漆(うるし)にも使用される、深く光沢のある黒色。ピュアブラックとも。
マットブラック艶を消し光沢を抑えた黒色。
アイアンブラックやや茶色がかった黒色顔料で、家具・建材・雑貨などに使用されることが多い。木材・樹脂にも鉄のような質感を付与できる。
墨色墨汁のようなやや青みがかった黒色。
カーボンブラック炭素を原料とする黒色顔料で、印刷インクやタイヤ、ベルト、ゴムなどに使用される。ピアノブラックやベンタブラック(後述)と同様にRGB(0, 0, 0)で表される。
アイボリーブラック動物の骨を焼いて生成される顔料で、やや茶色がかった暖色系のグレー。主として絵具に使用される。
マースブラック酸化鉄を原料とし、青みがかった寒色系のグレー。アイボリーブラックと対をなす。
ベンタブラック(VANTA BLACK)「世界で最も黒い」とされており、可視光を99%以上吸収する(=反射率が1%以下の)極めて黒い色。主として光学機器に採用されているほか、BMWやポルシェなど欧州自動車メーカーも一部採用している。
マイルドブラック通常の黒色よりも、わずかに灰色や茶色がかった、穏やかな黒色。
グリエブラック炭火で焼いたような、やや灰色がかった黒色。
チャコールグレー炭を意味するチャコール(charcoal)に由来しており、黒に近い濃い灰色で、落ち着いた洗練された印象を与える。

色見本や相手部品の現物などを当社に郵送いただくか、事前にご連絡いただいたうえで持ち込んでいただければ、試作や量産性の検討などご提案をさせていただきます。

黒色めっき・コーティングの種類と選定のポイント

締結部品を黒色にするのに使用される代表的な表面処理は、以下の通りです。

  1. 黒染め処理(四三酸化鉄被膜)
  2. 黒色クロムめっき(機能めっき)
  3. ニッケルクロムめっき黒(装飾めっき)
  4. 黒色パーカー処理(リン酸塩被膜処理)
  5. 亜鉛めっき+黒色3価クロメート
  6. 特殊黒色コーティング

黒染め処理(四三酸化鉄被膜)

黒染め処理とは、主として鉄系材料を高温のアルカリ浴に浸漬し、表面に四三酸化鉄(Fe₃O₄)の不溶解性被膜を生成する化成処理のことです。四三酸化鉄、いわゆる黒錆で表面が覆われることから、黒染めと呼ばれます。

膜厚は約1μmで寸法変化がほとんどなく、光沢のある黒色を付与し、耐食性・耐摩耗性が向上します。比較的低コストなのも特徴の一つです。

黒色クロムめっき(機能めっき)

黒色クロムめっきは、金属の表面に黒色のクロム皮膜を形成するめっき技術です。

深みのある黒色が特徴であり、意匠性・耐食性・耐摩耗性に加えて、反射防止効果(Anti-Reflection)や光吸収性も付与することができるため、光学機器や半導体関連、自動車分野において活躍しています。被膜はポーラスな2~3μ程度の皮膜で、油を塗布して使用されることも多いです。六価クロムを含有する処理液を使用する為、RoHS指令に対応すべく各処理業者によって洗浄方法を工夫して使用されてきた実態がありますが、グレーな部分が多いのでエンドユーザーによる解釈に温度差があるようです。

ニッケルクロムめっき黒(装飾めっき)

ニッケルクロムめっき黒は、文字通り、ニッケルめっきを下地とし、その上から黒色3価クロムめっきを施す表面処理です。

ニッケルとクロムを組み合わせることにより、優れた耐食性・耐摩耗性を付与できるほか、高級感のある美しい外観を出すことが可能です。漆黒とは少し違いガンメタリック的な黒色で自動車のフロントグリル等に使用されていることが多いので皆さんも目にされているのではないでしょうか?

黒色パーカー処理(リン酸塩被膜処理)

パーカー処理(リン酸塩被膜処理)とは、母材となる金属表面にリン酸塩の被膜を生成する化学処理です。

耐食性・耐摩耗性に加え、摺動性・被膜密着性を向上させることができる点が特徴です。塗装の下地処理に使用されるリン酸亜鉛処理やリン酸鉄処理、摺動部品に使われることが多いリン酸マンガン処理などの種類があります。リン酸亜鉛処理は黒灰色、リン酸鉄処理は灰色、そしてリン酸マンガン処理(リューブライト)は黒色に近い灰色を付与することができます。

亜鉛めっき+黒色3価クロメート

亜鉛めっき+黒色3価クロメート黒は、最も一般的なめっきである亜鉛めっきの後処理として、化成処理の黒色3価クロメートを施す表面処理技術です。

亜鉛は、鉄よりもイオン化傾向が大きい亜鉛被膜が先に腐食することにより、母材の鉄を錆から守る効果(犠牲防食効果)を持っており、鉄系材料の被膜として採用されることが多いです。身近なところでは、トタン屋根や自動車の車体カバーなどで亜鉛めっき鋼鈑が活躍しています。

亜鉛被膜だけでもある程度の耐食性を獲得できますが、クロメート被膜によりさらなる高耐食性を付与することができます。

特殊黒色コーティング

特殊黒色コーティングは、従来のめっき・塗装・コーティングでは足りないスペックを補う、もしくは機能性・意匠性を飛躍的に向上させるために開発された黒色コーティングのことです。

ラスパートブラックやポリシール、ダクロタイズドなど薬品メーカー各社が開発した特殊黒色コーティング剤が多数あります。ただし、製品・用途によっては合わないこともあり、さらに下塗り・中塗りとの相性も考慮する必要があるため、既存の特殊黒色コーティング剤では難しい場合があります。

そういった場合は、下記のような外観・機能性・環境対応などの要求事項と合わせて、表面処理業者にご相談いただければと思います。

  • 外観:どのような黒色(艶・色合い)が欲しいか?
  • 機能性:耐食性、耐摩耗性、耐久性、摺動性(摩擦係数)、トルク締め係数、耐候性、耐薬品性、密着性など
  • 環境対応:六価クロムフリー?ノンクロム(完全クロムフリー)?

キョークロの黒色めっき・コーティング開発

当サイトを運営する株式会社キョークロは、ネジ・ボルト・ビスなどの締結部品を中心に、めっき・塗装・コーティング・化成処理を、開発・試作から量産まで一貫して行っております。

締結部品の黒色めっき・コーティングについても、例えば下記のようなご相談を頂いております。

  • ムラのない漆黒外観にしたい
  • 亜鉛めっきの化成処理を、3価クロメートではなくノンクロム(完全クロムフリー)にしたい
  • クロメート被膜が経年変色しないようにしたい
  • 屋内なので耐候性はあまり必要ないが、落ち着いた艶消し黒色外観が欲しい
  • 優れた耐熱性・耐候性が欲しい
  • 艶あり黒色外観と潤滑性を付与したい
  • 水素脆性リスクを低減し高耐食性を付与してほしいが、ノンクロムにしてほしい
  • 電蝕を防ぐための絶縁性に加え、耐薬品性も付与したい

こういったお客様からのご提案に対して、当社がご提案している黒色めっき・コーティングについてご紹介します。

黒色3価クロメート+黒色コーティングによる、良質な黒色外観の実現

亜鉛めっき+黒色3価クロメートに加え、黒色コーティングを行うことにより、より良質な黒色を得ることができます。

艶あり・艶消しいずれにも対応可能で、さらに当社のクロメート被膜は銀不使用のため経年変色がありません。

また、高い外観要求に応えるため、全自動ラインには組み込まずに専用の後処理ラインで処理しております。

キョークロブラック(亜鉛めっき+ポリシール)による、ノンクロムと黒色艶消し外観の両立

六価クロムだけではなく三価クロムも含まないノンクロム(完全クロムフリー)のご要望にお応えする形で開発したのが、当社の社名を冠した「キョークロブラック」です。

クロメート無しの亜鉛めっき下地に耐薬品性・電蝕防止に優れたポリシールコーティングを施すことにより、ノンクロムで、且つ高級感のある黒色艶消し外観を実現することができます。

なお、ノンクロム要求が無く、より良質な黒色が必要な場合は、黒色クロメート+ポリシールも提案可能です。ただし、ポリシールは屋外環境で変色(白化)してしまうため屋内専用になります。

亜鉛系めっき+JKCコートによる、高耐食性と艶あり漆黒外観の両立

亜鉛めっき下地にJKCコートをトップコートとして組み合わせることにより、美しい艶あり漆黒外観を得ることができます。

亜鉛ニッケル合金めっき(高ニッケルタイプ)と組み合わせると、さらに耐食性を向上させることができます。

六価クロムを含む黒色ダクロタイズド処理からジオメット処理+JLブラックへの代替による、ノンクロムと摩擦係数安定の両立

黒色ダクロタイズド処理は塩水噴霧試験2,000時間にも耐えうる優れた耐食性により高い人気を誇りますが、環境負荷の高い六価クロムを含有しています。

その代替として開発されたのがジオメット720であり、ダクロと同等の性能(耐食性・耐熱性・電蝕防止効果・つき廻り性・水素脆性低減)をノンクロムで実現することができます。

これに、JLブラックをトップコートとして組み合わせることにより、落ち着いた深みのある黒色艶消し外観と高耐食性、そして摩擦係数の安定を得られます。

亜鉛系めっき+黒色3価クロメート+DMコートによる、黒色艶あり外観と潤滑性の両立

亜鉛めっきや亜鉛ニッケル合金めっき(高ニッケルタイプ)に黒色3価クロメートを施し、さらにDMコートと呼ばれるPTFE固体潤滑コーティングをトップコートとすることにより、良好な黒色艶あり外観と高潤滑性、高耐食性、非粘着性を付与することができます。

Zコート+ユニメット処理GT510により、ノンクロム・高耐食・水素脆性無しを実現

Zコート(乾式衝撃亜鉛被膜)は、特殊なブラストメディア(ZRアイアン)を高速で投射することにより亜鉛合金被膜を形成する、環境負荷が低い表面処理(主として下地)です。

ユニメット処理GT510は、ケイ酸塩の無機バインダーとアクリル樹脂の有機バインダーによるハイブリッド被膜であり、黒色艶消し外観を特徴とします。

両者を組み合わせたU&Zコートは、ノンクロム、高耐食性、被膜密着性を付与し、水素脆性を無くすことができます。